最高品質のプロジェクトマネジメントを武器に、世界のEVバッテリーメーカーを支える。
〜EVバッテリー工場立ち上げをめぐる海外プロジェクト〜
機械事業本部プラント設備第2グループ 部長 東樹誠
- #カーボンニュートラル
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脱炭素を後押しするEV。そのバッテリー生産拠点増設のために
カーボンニュートラル推進の動きが加速している昨今、自動車産業における鍵となるのが、ガソリン車から電気自動車(EV)への転換です。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界のEV総台数は2030年に2億5000万台、2035年には5億2500万台に達すると予測しています。2035年には、世界を走る車の4台に1台以上がEVになる見込みです。
右肩上がりで増えていくEV車用バッテリーへの需要に応えるべく、世界中の自動車メーカーやバッテリーメーカーは、各国に工場を立ち上げ、バッテリーの増産を進めています。世界で最も早くからEV用リチウムイオンバッテリーを生産してきた企業のひとつであるAESC社も、バッテリー供給増強のため、工場を増設する計画を世界各地で進行中です。

日産自動車がリーフに搭載するためのバッテリー工場を、日本と米国に設立した際、日産トレーデイング(NITCO)は生産設備の輸送と据付、現場の立ち上げ業務を担いました。私は入社から20年以上こういった海外プロジェクトに携わっており、2010年当時は米国の駐在員として現場のマネジメントを行なっていました。
そのようなNITCOの経験と実績が買われ、AESCからグローバル拠点となる工場建設のサポートの依頼を受けました。その最初の取り組みが、パイロットラインとなる日本の茨城工場の建設です。私たちは計画段階から参画し、全体プロジェクトのスキーム設計、役割分担を提案しました。その上で、最も得意とする生産設備の輸送と工場への据置を請け負った、というわけです。私はこのプロジェクト全体の統括責任者を務めました。


海外メーカーへのマネジメントを通じ、工場設備の品質を担保する
茨城工場のプロジェクトで難しかったのは、生産設備を導入する工程です。今回、工場に設置した多くの生産設備は中国からの輸入品になりました。
しかしその一方で、今回生産設備を提供する中国のメーカーは、海外輸出をほとんど経験したことがなく、輸出貿易に関するノウハウを持ち合わせていない、という懸念も抱えていました。そこで私たちは、このメーカーとゼロから関係を構築し、書類の作り方や出荷の方法などの輸出貿易に関する手法を丁寧に伝え、サポートすることとなったのです。

特に困難だったのは、日本と中国では物流や生産設備の梱包の慣習が異なっているため、その擦り合わせを繰り返したこと。日本のメーカーの場合、メーカーから港に隣接した梱包場に設備を運び、そこで一括して梱包します。一方中国では、設備メーカーが独自に自分たちの工場で梱包するのが一般的であるため、中国式のスタイルだと梱包前にNITCOが設備の品質チェックを行うタイミングがなくなってしまう。そこで今回は、NITCOが港で責任をもって輸出梱包を一括して行うというフローを、メーカーとの対話を重ねて導入することとなりました。
今回は大量の輸出梱包を短期間で行う必要もあったため、輸出梱包を効率的に行うための倉庫を、上海の港に立ち上げるに至りました。そこに運ばれてきた設備を一つひとつチェックし、問題がないものだけを出荷したことで、不良品発生率をゼロにすることができました。


ダイバーシティに富んだ現場での経験は、駐在社員の血肉となる
私たちが茨城工場に導入した生産設備はコンテナ1,500本と、今までに経験したことのない量でした。忙しい時は毎週50〜60本ほどのコンテナが上海の倉庫に到着し、それを週に2度やってくる船に20〜30本ほどずつ積み込んでいました。
横浜の港に着いた荷物は協力会社のトラックに乗せて茨城まで運び、NITCOの陣頭指揮の下、据付けを行いました。中国のバッテリー製造設備を日本の工場に据え付けるのは、業界でもそれ程実績が無く、事前に開示される情報が不十分な中、安全かつ効率的に設置するために知恵を絞りました。
この茨城工場の立ち上げプロジェクトが評価いただけたためか、AESCから新たに英国工場のサポートも依頼されました。これは私が今まで経験した海外プロジェクトの中でも1、2を争う難プロジェクトです。なぜなら、英国の安全ルールが日本以上に厳格だったためです。日本とは異なるルールの中でいかに効率よく設備を据え付けるか、現地チームは協力会社と力を合わせながら取り組んでいます。

この英国工場プロジェクトチームは10以上の国籍のスタッフからなり、ダイバーシティに富んでいます。多様なメンバーと円滑なコミュニケーションを取りながら、ハードルの高い海外プロジェクトを完遂することは簡単ではありませんが、現地に駐在しているNITCOの社員にとっては大きな成長の機会になるだろうと、管理職としては期待しています。
ここまでお話ししたような、想定外のことが次々起こる海外プロジェクトのマネジメントは、苦労やプレッシャーも多いもの。でもそれだけに、完遂した時の達成感も大きいものです。現場に行くと、昨日は何もなかったところに新しい設備が設置され、工場が少しずつ完成に近づいていることを実感でき、自分が苦労して進めている仕事の結果が日々、目に見えることは、この仕事の大きなやりがいです。

EV普及の未来を担う人材を育成するため、今日も現場へ足を運ぶ
今回ご紹介したプロジェクトはいずれも規模が大きく、最初から私の部下だけでは人員が足りなくなると予想していました。そこで経営層や人事部と相談し、新たに「トレイニー制度」という社内公募制度を設け、日本と中国のNITCOの他部署から人員を募りました。「一度、現場仕事を体験してみたい」と、日頃は内勤を中心に働いている優秀な社員が次々応募してくれたのは嬉しかったですね。
今後のEVの拡大を考えると、現在の世界のバッテリー製造設備はまだまだ不足しており、AESCでも新たなバッテリー工場の建設を予定しています。今後、拡大するニーズに対応すべく、海外プロジェクトをマネジメントできる人材の育成は急務です。
しかしながら、海外プロジェクトのマネジメントは、マニュアル化しづらい仕事でもあります。現場状況はそれぞれですし、想定外のことが次々と起こります。そのような状況に臨機応変に対応し、関係者に協力してもらいながら、プロジェクトを引っ張っていく推進力。この力は、数多くの現場で経験を積んで体得していくしかありません。今回のプロジェクトでも、多くの中堅・若手人材を現場に投入し、私自身もできる限り現場に立って知識やノウハウを伝えています。

今回のような事業規模で、中国メーカーに対し生産設備の輸出をマネジメントできるのは、NITCOならではの強みです。これまで培ってきたノウハウを生かし、グローバルに活躍できる人材を育てながら、EV普及の鍵となるバッテリー工場の増設を支える。それこそが、私たちがカーボンニュートラル社会の実現に貢献するための、大きなミッションだと思います。

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自動車関連製造設備、設備輸送、機械保守部品などの取扱商品・サービスを、お客様のモノづくりのLife cycleを通じ、日産トレーデイングの価値として提供しています。
