グローバルサプライチェーンの混乱の中、安定的な部品供給を実現するために

日産トレーデイング(NITCO)では、日産自動車で自動車の製造に用いる部品、素材や設備などを、日々、輸出入しています。貿易オペレーションをスムーズに行えるよう、物流インフラを企画・提供することが、私たちが所属するグローバル部品事業本部「企画・管理グループSCM改革チーム」(SCM=サプライチェーンマネジメント)のミッションです。国内、海外のお客様からの要望に対応すべく、私たちは日々社内の関連部署・チームからの問い合わせや要望に対応し、世界各国20を超える船社との調整を行っています。(吉田)

そんな業務が立ち行かなくなってきたのは、2020年秋頃。「コンテナスペースが取れなくて困っている」「今使っている船社のキャパシティが限界を迎えたので、他の船社を紹介してほしい」といった社内担当者からの問い合わせやサポート依頼が急増したのです。その原因は、コロナ禍によるグローバルサプライチェーンの混乱でした。

その要因は多岐にわたっていました。まずはコンテナ工場の稼働率が低下し、コンテナの数が減っていったこと。また、港湾で働く労働者の不足も発生し、港に積荷を降ろせなくなったこと。ロサンゼルスなどの米国の港湾では、100隻以上の船が港に入れず沖で滞留する、いわゆる「沖待ち」という状態が多発していました。さらには、コンテナを内陸輸送するための「シャーシ」の不足。コンテナの輸送がますます困難になりました。こういった要因が重なり、日本を含むアジア各国から北米や欧州へ、輸出された部品や材料が届くまでには、通常より1〜2カ月も長くかかるようになりました。コンテナ、およびコンテナスペースの不足により、当時のサプライチェーンは混沌としていたのです。

このような事態になったことに加え、やはりコロナ禍によってもたらされた巣ごもり需要で、アジアから北米に向けた貨物量は急激に増えていました。そのためグローバル輸送のキャパシティが、かつてなく不足する事態となっていたのです。慢性的な輸送遅延状態が続き社内担当者はコンテナスペースを確保できず、「コンテナスペースの取り合い」が発生し始めていました。(田中)

特命の「BCPタスクフォースチーム」が設立され、
日産グループが一丸となって難局を乗り切ることに

このようなグローバルサプライチェーンの混乱には私たち同様、日産自動車も困っていました。日産自動車では、NITCOやその他のルートを通じて大量の部品の輸出入を行っており、このままではグローバルに展開している日産自動車の工場のラインが止まり、車の製造もストップしてしまうかもしれない、という懸念が生まれていたのです。

この難局を日産グループで一丸となって乗り越えるべく、2021年7月に日産SCM本部が「BCPタスクフォースチーム」(BCP:Business Continuity Plan=事業継続計画)を立ち上げました。これまで日産グループ会社が個別に行っていた輸送業務を、日産自動車SCM本部が中心となって情報集約の上でコントロールし、コンテナ使用本数の振り分けや調整を一元管理しよう、というものです。私はNITCOの窓口としてBCPタスクフォースチームの一員となり、日産自動車とともに調整業務に取り組むこととなりました。

まずはNITCOとして取り扱うコンテナ本数、出荷時期などを、3カ月先まで明確にする必要がありました。そこで、韓国、タイ、中国、アメリカの海外4拠点、および国内8グループに所属するNITCOの総勢約40名の担当者に対し日々ヒアリングを実施。そこから得られた出荷情報を集約し、週に1回のペースで更新して日産自動車へ共有、というルーティンを構築しました。その情報を基に、日産SCM本部が日産グループとして最適なコンテナスペースの振り分け、調整を開始しました。

振り分けの結果、調整が必要な場合は、それを社内の担当者に伝えるとともに、彼らの要望に応えるために改めて日産自動車や船社と調整しました。このような社内外との連携を深めることにより、主要船社のコンテナスペースをどうにか確保できるようになったのです。このプロジェクトは現在に至るまで続いていますが、コロナ禍の状況が変化したことも手伝い、昨年秋頃より混乱は少しずつ落ち着いてきています。(田中)

日産グループとの精緻なコミュニケーションが導いた、ロスコストの最小化

このプロジェクトでは、日産自動車への精度の高い情報提供、彼らの立場に立った迅速なレスポンスが不可欠でした。ただ、プロジェクト開始当時は、日産自動車のSCM本部と私たちNITCOが協業するのは初めてのこと。そのため、ゼロから集約スキームを構築する必要があり、社内担当者から回収した情報を日産自動車に提供する流れが定着するまでには、数カ月を要しました。また、日産グループ内の出荷計画が確定するタイミングは、グループ内各社ごとにまちまちのため、詳細な調整も必要でした。

貿易オペレーションの各担当者は、日々変わる状況に合わせ、臨機応変に対応しています。先ほどもお伝えした通り、出荷計画は3カ月先まで毎週提出していますが、半導体部品の不足などで車両生産計画が変動すれば、コンテナスペースが必要なタイミングも変わります。そのような刻々と変化する最新の状況を掌握するためには、社内各担当者の協力が不可欠でした。初めての取り組みだったため、担当者から戸惑いの声が上がることもありましたが、この取り組みへの理解を深め、協力を得られるよう、密なコミュニケーションを心掛けました。その結果、日産自動車とのタイムリーな情報共有や調整へのアクションへとつなげることができるようになったのです。

こういった努力が実り、日産SCM本部役員から「ロスコストの最小化に貢献してくれた」と感謝状をいただいた時は、本当に嬉しかったですね。NITCOのビジネスの根幹は、最適な方法、価格、時期に物品を運び、かつ納期を厳守すること。生産ラインを止めないためには、緊急でコストの高い飛行機を使うこともありますが、物流を最適化して空輸を極限まで減らすことも、我々の重要なミッションのひとつです。(田中)

リスクヘッジを叶える、社内物流インフラにおける影の立役者として

今回のプロジェクトは何もかもが初めての挑戦で、苦労も少なくありませんでしたが、結果的に、NITCOにとっても様々な恩恵があったと感じています。例えば、北米の西海岸経由の航路がストライキなどにより大幅に遅れそうな場合は、東海岸やメキシコ湾経由の輸送ルートを使うことができるようになりました。NITCO単独では船社との契約ルートも契約本数枠も限られますが、日産グループ全体として管理、運用することでルートのオプションが増え、双方の余剰枠を活用でき、ロスコストを最小化することができるのです。(田中)

今回のプロジェクトを通して、私たち自身、部品、設備やマテリアルなど、社内グループごとの異なるビジネス特性やオペレーションについての知見がさらに深まりましたね。また、社外の日産グループ各社との関係も強化され、今後も状況に応じて円滑に調整できる環境になったと思います。

コロナ禍の状況は改善しつつあるものの、ウクライナ情勢や各地域でのストライキなど、国際物流の混乱リスクが増加する要因は、他にもたくさんあります。今後もサプライチェーンを取り巻く環境の変化に対し、タフな調整や対応が必要となる局面が出てくるでしょう。我々はNITCOが担っているサプライチェーンマネジメントの基盤を支える「陰の立役者」と自負し、業務に臨めるチームでありたいと思っています。

これからも社内、社外のお客様の要望に対し、日産SCM本部、物流購買、各関係者との連携をさらに強化しながら、ニーズを先取りした質の高い物流ソリューションを企画、提供していきたいと思います。(吉田)

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